医療系のAI案件で、ある提案の場面がありました。相手は医療機関と連携しているシステムを持っていて、クラウドAIを使っていたけれどコストが読めない、モデル選定にも迷っている、という状況でした。
話を整理していくうちに、相手が欲しがっているのは「移行先のモデルの精度がどうか」じゃないな、とすぐ分かりました。欲しいのは、うちの規模だと月いくらになるのか、という一点でした。
「性能」を説明するほど場が冷める
クラウドAIの話をすると、どのモデルがどれだけ賢いか、精度がどう違うか、という話に引っ張られやすいです。提供する側としても、そっちの方が語りやすい。
ただ、医療機関や医療系の業者の意思決定者には刺さりません。精度の違いより先に、予算と費用対効果を出さないと、話が次に進まない。何度かそういう場面を経験して、提案の順番を変えました。先にコスト試算を出す、という順番に。
試算をAIに頼んだ
このとき私は、移行先の候補として AWS Bedrock を検討していました。どのモデルをどの頻度で呼ぶと月額いくらになるか、を先に計算して提示したかった。
コード自体は自分で書かず、AIに頼んで作ってもらいます。こういう頼み方をしました。
病院がAIを使う場合の月額API費用を試算したい。
- 医師や事務が1日に処理する件数(問い合わせ・書類・記録の読み書きなど)を仮定して
- 1件あたりのトークン数(入力と出力それぞれ)を大まかに見積もって
- それを月の稼働日数で掛けた合計トークン量と、現行の料金表から月額を計算して
小規模(病床が少ない)から中規模まで、3段階くらいのシナリオで試算表を作ってほしい。 「最低でこれくらい、使い方次第でここまで上がる」が伝わる形で。
ポイントは、「病院単位」というスケールで試算を出す、というところです。APIの単価は公開されていても、自分たちの使い方に当てはめた数字は出てこない。そこを変換して出すと、相手は一気に具体的に考えられるようになります。
必要なのは「自分たちの数字」
試算の精度はさほど高くなくて構いません。「おそらくこのレンジに収まる」という感覚を相手が持てればいい。
実際、提案段階では正確な使用量は分かりません。でも根拠のある仮定(1日何件、1件あたり何百トークン)を示して計算過程を開示すると、相手は自分の状況に当てはめて「うちはもっと多い」「案外少ないかも」と動き始めます。試算を叩き台にして、相手側から数字が出てくる。
この流れが、次のステップにつながります。概算が合えば進める、合わなければその時点で止める。どちらにせよ、数字がないと判断できません。
PoC前に試算を出す意味
この案件は提案・PoCの段階で、実際に稼働している話ではありません。だから「やってみたら劇的に変わりました」とは書けない。
ただ、移行を検討する理由として「現行のコストが読めない」があるなら、最初に出すべきものは試算です。移行先の性能や機能はその後でいい。
意思決定者は予算と効果のセットで判断します。効果だけ出しても動かない。医療の現場だと特に、費用の説明責任が重い。「このくらいのコストで、このくらいの削減が見込める」という形を先に整えておかないと、話が止まります。
コスト試算を先に出すのは、相手への配慮というより、提案を前に進めるための実用的な段取りです。
