日本語学校の方から、こういう相談が来ました。
「学習者が音声で質問に回答して、講師が一人ずつ聞いて、レベル1〜10で判定して、レポートを書いている。これをAIで自動化できないか」
聞いた瞬間、詰まり所が見えました。今の運用で一番重いのは、講師の「聞く」作業です。学習者が増えるほど、この聴き直し時間が積み上がる。
何が詰まっているか
整理するとこういう流れです。
学習者が音声で回答
↓ Airtableで保存・再生
講師が一人ずつ音声を聴く
↓ 独自基準でレベル1〜10を判定
レポートを作成
「Airtableは必須ですか?」と聞いてみると、「無理に使わなくてもいい」との回答でした。道具に縛られていないなら、設計の余地があります。
それより大事なのは「何を判定しているか」を確認することです。
文字起こしだけでは消えるもの
最初に「文字起こして、文法と語彙を見ればいいのでは」と考えたのですが、相談しながら気づいたことがあります。
「現在は講師が保存・再生している」ということは、テキストだけでなく音声そのものを聴いて判断しているはずです。文字に起こしてしまうと、発音の明瞭さ、話すリズム、詰まり具合といった情報が消えます。
これが設計の分岐点でした。文字評価だけで組むと、今の採点基準とずれたシステムになります。
AI判定の2段構成
文字起こしベースの評価と、音声ベースの評価の2つを組み合わせる必要があります。
まず音声を文字に起こし、その文字データをAIに渡して文法・語彙・内容の適切さを評価します。同時に音声データそのものから、発音の正確さ・流暢さ・イントネーションといった音響的なスコアを取ります。この2つを合算して、最終的なレベル判定とレポートを出す形です。
AIにはこういう頼み方をしました。
日本語教育の専門家として、以下の音声文字起こしを評価してほしい。 文法の正確さ、語彙の豊富さ、内容の適切さを見て、会話レベルを1〜10で判定して。 判定根拠と改善提案もJSON形式でまとめて。
音声の音響的特徴(発音・流暢さ・韻律)については、音声専用のAPIを使って別途スコアを取り、AIの言語評価と重み付けして合算します。
判定基準は「今の講師の採点」を崩さない
このシステムで一番気をつけたのは、自社基準のレベル1〜10をAIに引き継がせることです。
「一般的なJLPT基準でいい」なら話は早い。でも実際は、その学校独自の採点基準がすでにあります。今まで講師がどう判定してきたかが蓄積されている。それと乖離したスコアが出ると、現場が混乱します。
評価基準を設計するとき、「今の講師が何を見て何点をつけているか」を言語化してAIに渡す部分が、一番時間をかけるべきところです。
レベル1〜2は単語の羅列のみ、文法構造なし。レベル3〜4は「〜です/〜ます」が使える初歩的な文。レベル5〜6は複文が使えて語彙も中級。レベル7〜8は上級語彙と慣用表現、文法エラーがほぼない。レベル9〜10はネイティブレベルの自然な表現。
このような基準をテキストでAIに渡し、実際に採点済みの音声サンプルでAIの判定と講師の判定を照合して、ずれを直していく。この調整作業を省くと、現場が納得しないシステムができあがります。
Airtableを使い続けるかどうかは後で決めていい
最初の相談でAirtableの話が出ましたが、「使わなくてもいい」という方針になりました。
仕組みの入口は「音声ファイルが届いたらトリガーが走る」形にしておけば、Airtableでもフォームでも、あとからつなぎ先を変えられます。
自動化するときに、今使っているツールの都合で設計が歪むことがあります。「Airtableを生かしたい」か「最終的に何をしたいか」かで優先順位は変わるので、最初に確認しておくと後で詰まらずに済みます。
何から始めるか
こういう案件の場合、最初から全部作るよりも、次の順番で進めることが多いです。
- 既存の音声サンプル(採点済みのもの)を10〜20本集める
- AIで文字起こし・評価させてみて、講師の採点と比べる
- ずれが大きい部分の基準を調整する
- 問題なければ実際の運用フローに組み込む
音声品質(録音環境・ノイズ)によって文字起こし精度が変わります。実際のサンプルで確認してから本番を作る方が、後でやり直すより速いです。
