取引先がいる業種の会社で、こんな仕事を見かけます。受注システムには注文が入ってくる。でも、その先が人の手で止まる。取引先が「発注はFAXで」を崩さないので、画面を見た担当者が内容を転記して、発注書を作って、FAXで送る。1日に何十件もそれをやっている。
このケースで私がやったのは、AIにチャットを答えさせることではありませんでした。受注データが入ったら、自動で発注書に変換してFAXで飛ぶ。誰も何も操作しない。担当者が関わるのは、何かエラーが出たときだけです。
チャットボットの落とし穴
AIを入れよう、という話になると、チャットボットを設置することが多いです。HPのコーナーに小窓が出て、問い合わせに答える。仕組みとしては正しい。
ただ、入れた後どうなるかを見ていると、案外触られていないことがある。
担当者がいない時間帯に問い合わせが来て、ボットが答える。それ自体は動いている。でも、ユーザーが最初の一問で引っかかって離脱する、あるいは結局電話してくる、ということが起きる。設置したことと使われることは別の話で、そこにギャップが生まれやすい。
もう一つ、ツールを導入したのに業務の流れが変わらない、というパターンもあります。受注はシステムに入ったのに、その先は人がコピペで別のシステムに移す。ツールが増えただけで、繋ぎ目は相変わらず手作業という状態。
「触らせない」設計
別のアプローチがあります。ユーザーにも担当者にも、何も触らせない。
受注が入る → 自動で加工 → 外に送信 → 完了。この流れが動けば、人は関わらなくてよい。FAXを例にすると、こうなります。受注システムに注文が入ると、自動でそのデータを取得して、取引先ごとのフォーマットに合わせた発注書に変換する。それをネットFAXのサービス経由で取引先のFAX機へ送り、送信が終わったら受注ステータスを「送信済み」に更新する。
この流れに人間は一人も登場しない。担当者は翌日、ステータスが「送信済み」になっているのを確認するだけです。
これを私はAIにお願いして作ってもらいました。
受注システムに入った注文を、自動でFAXで送れるようにしたい。取引先ごとの発注書フォーマットがあるので、そこに合わせて変換する。送れたら受注ステータスを更新して。それと、テストの間は自分の番号にだけ飛ぶモードを作っておいて。宛先が確定できない注文は無理に送らず止めて残して。
業務の言葉でそのまま渡しただけです。どのFAXサービスを使えとか、どのAPIを叩けとか、そういう話は一切していません。
AI-OCRも同じ発想
「請求書の手入力をなくしたい」という相談で使うのがAI-OCRです。PDFや画像で届いた請求書を読んで、金額や品目を取り出す。これも同じ発想です。人が見て打ち込んでいた部分を、機械に読ませる。
ユーザーは何もしない。書類が届く → 自動で読む → 管理シートに記録される。この流れに担当者は関わらない。
チャットボットと大きく違うのは、誰かが使おうと思わないと動かない、という制約がないことです。チャットボットは訪問者が開いて質問しないと動かない。でもこっちは、トリガーが発生したら勝手に動く。
どういう業務に向くか
裏側で動かすタイプが向いているのは、入力が決まった形で来る業務です。
受注データ、請求書、フォームの送信、センサーのログ、これらは毎回同じ形で来る。だから機械にやらせやすい。一方で、「今日の問い合わせの意図を判断してほしい」のような、状況によってバラつく仕事はまだ難しい。
判断の余地が小さく、量が多く、毎日繰り返す。そういう作業が候補です。
逆に、チャットボットが向いているのは、問い合わせ内容が読めない場合です。夜中に来た質問に翌朝まとめて返していたのを、24時間で受け付けられるようにしたい、というケースは合っている。相手が質問するという前提が成立していれば、チャットボットは機能します。
失敗しやすいところ
誤送信が一番怖い。自動化したはいいが、間違った宛先にFAXが飛ぶ。あるいは同じ注文が二重に処理される。これは一度起きると取り返しがつかない。
なのでテスト中は、送信先を自分の番号だけに固定するモードを必ず作ります。本番に切り替えるまで、外には何も飛ばない状態で動きを確かめる。それと、宛先が特定できない注文は自動処理から除外して、手動用のリストに残す。「不明なものは機械が判断しない」という線引きが大事です。
ツールを入れると何でも自動化できると思われがちですが、自動化していい範囲と、人が確認する範囲を最初に決めておく。この線引きだけは、機械ではなく人がやります。
必要なもの
同じことをやるのに要るのは、だいたい3つです。
- 入口のデータを外に出せる仕組み(受注システムやフォームが、発生したことを外に知らせられること)
- 出口となるサービス(FAX送信、メール送信、シートへの書き込みなど)
- その2つをつなぐ処理を動かす場所
3つ目は、無料で動く実行環境(Googleのスクリプト環境など)で足りることが多いです。高いインフラは要りません。
チャットボットを設置して反応が薄かった、という会社で、こういう裏側の自動化に切り替えたところ、担当者が「あれ、もうやらなくていいの」と気づいた、ということが起きます。ユーザーには見えないし、担当者も何もしていない。でも仕事は終わっている。それが、いちばん使われているAIの姿だと思っています。
