「データを活用したい」と言う会社が、なかなか前に進まない。最初の相談で終わる。そういう経験を何度かしているうちに、原因が少し分かってきました。
問題は予算でも意欲でもなく、相手が自社の現状を把握していないことです。「データ活用したいけど、うちはどこから始めればいいか」が分からないまま提案を受け取ると、「とりあえず一度考えます」で終わります。こっちの提案がどれだけ丁寧でも、受け取る側に判断の土台がない状態では、動きにくいのはむしろ相手の方です。
「整っていない」がどの程度か
データ活用の文脈で詰まる会社には、共通するパターンがあります。どのデータがどこにあるか把握していない。Excelがいくつもあって誰がどれを正とするか決まっていない。担当者はいるが権限やルールが曖昧なまま。
こういう状態を「体制が整っていない」と一言でまとめることはできますが、整っていないにもグラデーションがあります。クラウドのデータ基盤がないだけなのか、そもそもデータが一か所に集まっていないのか、分析を担える人材がいないのか。どのレイヤーで詰まっているかによって、最初にやるべきことがまるで違います。
ここを会話で探ろうとすると、1時間かかる割に論点が散らかります。最初から「このシートに答えてください」と渡せるなら、その方が双方の時間が節約できる。
診断シートを先に渡す理由
有償の提案を持ち込む前に、無料の診断シートを渡す。これ自体はよくある商談設計です。ただやり方次第で、効果がかなり変わります。
うまくいくのは、シートが「難しくない」と感じられるときです。技術的な質問が並んでいると、担当者がITの人に回して止まります。「データウェアハウスを使っていますか」「ETLプロセスはありますか」のような問いは、非エンジニアには答えにくい。答えられないと、そこで手が止まる。
機能するシートは、操作の事実を聞きます。「受注データを月次で集計して報告していますか」「Excelを手で更新している工程は週に何回ありますか」「前回のデータとの差分を確認する仕組みはありますか」。こういう問いなら、現場担当者が答えられます。答えてもらえると、診断レポートで返せるものが出てくる。
診断レポートで「見える化」する意味
シートの回答を受けてレポートを返す。このプロセスで何が起きるかというと、相手の中で課題が具体化します。
「データが散在している」と頭では分かっていても、「受注管理はExcel、経費精算は別システム、在庫は担当者の手帳」という形で書き出してみると、連携させるには何が要るかが急に見えてきます。これは相手が自分で認識する体験なので、こちらが「問題ですよ」と言うより受け取られやすい。
レポートには現状の評価と、優先度の高い課題の整理と、「ここから始めるなら」という方向性をまとめます。ここで始めて有償の提案につながる文脈が生まれます。診断で見えた課題の解決策が、そのまま提案の骨格になるからです。
無料で診断を渡しているのに有償につながる、というのは矛盾に見えてもっともな話で、診断の段階で「この会社のことをちゃんと理解している」という信頼が先に積まれているからだと思っています。
どんな項目を入れるか
診断シートの設計で迷いやすいのは、範囲と粒度です。
広くしすぎると答えるのが大変になる。狭すぎると課題の全体像が出ない。自分の場合は、5つのカテゴリで各3〜5問、合計20問前後を一つの目安にしています。
カテゴリの例:
- データの所在(どこに何があるか分かるか)
- 更新と管理(誰がどう更新しているか)
- 活用状況(今どんな形で使っているか)
- 人材と体制(担当者がいるか、スキルはどの程度か)
- 意思決定との連動(データを見て判断する場面があるか)
採点方式にして「あなたの会社は○段階中△です」と返すと、相手が自分の位置を把握しやすくなります。段階を定義するとき、最低段階を「恥ずかしい」とならない言葉にするのがコツです。「まだ整っていない」ではなく「これから整えていく段階」のように。実態が同じでも、受け取られ方が違います。
有償につなぐのはどこか
診断レポートを渡した後、相手が「うちはこの課題から手をつけたい」と言い始めたら、そこが提案のタイミングです。
大事なのは、相手が自分で課題を選んでいることです。こちらが「これが問題ですよ」と押しつけるより、相手が「ここが問題だと分かった」と言う方が、その後の商談が早い。診断という構造がそれを引き出しやすくしています。
逆に言うと、診断シートを渡してレポートを返す段階で、契約を急ぐのは台無しです。レポートと一緒に「では有償でやりましょう」を畳みかけると、無料の段階から売り込まれていた、と感じる人が出る。レポートを渡したら少し間を置いて、相手が話を持ち出してくるのを待つくらいの設計の方が、実際には早く決まります。
ここでの有償のスコープは、必ずしも大きくなくていいです。まず診断で洗い出した課題の一つだけ、小さく試す。これだけで相手の動き方が変わることが多いです。
