無料で相談する
医療・規制業界

閉域だからAIは無理、は覆せる

電子カルテに触らず音声記録を自動整形する設計の考え方

2026-01-28

閉域だからAIは無理、は覆せる

訪問診療の医師が帰院してから何をするか、聞いたことがあります。診察が終わった後、院内のパソコンを開いてカルテを打ち込む。一人一人の分を。1日の患者数にもよりますが、それだけで数時間かかることもあるそうです。

「音声で記録できればいいのに」と思っても、電子カルテ端末はインターネットに出られない設計になっています。病院側がセキュリティ上わざとそうしている。クラウドの文字起こしサービスに音声を送ろうにも、経路がないのでどうにもなりません。

「うちはセキュリティで閉じてるからAIなんて使えない」という話は、医療現場でよく聞きます。これは正確ではなくて、正確には「電子カルテ端末からはAIに出られない」というだけです。そこを分けて考えると、設計の余地が出てきます。


問題の構造

電子カルテが閉じているのは理由があります。患者情報が外部に漏れないように、ネットワーク自体を切り離している。この考え方は正しい。変えなくていい。

問題は「閉じている=AI活用ゼロ」という結論に飛んでしまうことです。電子カルテ以外の場所から、別の経路で音声データを扱えれば、カルテへの転記作業だけを助けることはできます。

訪問先でスマホに話しかけて音声を記録する。その音声をクラウドで文字起こしして、カルテ書式に近い形に整形する。帰院後、担当スタッフが内容を確認してカルテに貼り付ける。電子カルテ本体はこの流れのどこにも入ってきません。

訪問先(医師がスマホに音声入力)
  ↓ 閉域モバイル回線で特定サービスにだけ接続
クラウド(文字起こし → カルテ書式に整形)
  ↓
院内スタッフが確認して電子カルテに貼り付け

これが私が設計として考えている骨格です。


カルテに触らないのが、じつは正解

電子カルテシステムにはベンダーがいて、改修や連携には必ず話が通ります。「AIを接続したい」と言った瞬間に、ライセンス、責任範囲、インターフェース仕様の交渉が始まります。たいていの場合、時間も費用もかかります。最悪、「うちのシステムに外部接続は認めない」で終わります。

だからカルテ本体には触りません。入力のサポートだけするなら、カルテ側の改修は不要です。最終的に人がコピーして貼るとしても、「読んで打ち込む3時間」が「確認して貼る20分」になるなら、それだけで十分な意味があると見ています。


抜け道の作り方

「閉域ネットワークなのに、特定のクラウドサービスにだけ通信できる」状態は、どうやって作るのか。

考え方としては、院内のLANに小さな装置を一台置き、そこからクラウドの文字起こし・整形サービスだけに出られる専用の経路を引きます。閉域モバイル回線を使うと、他の経路とは完全に分離した通信になります。院内LANの電子カルテには繋がらないし、インターネット全体にも出ない。使えるクラウドサービスを特定のものに絞る設計です。

AIにこの仕組みの構成を頼むなら、こんな言い方になります。

病院の閉域LANにある端末からはインターネットに出られない。でも音声データを扱いたいので、カルテ以外の経路から特定のクラウドサービスだけに繋がる仕組みを作りたい。

  • 院内に小型PC(もしくはSIMルーター)を一台置いて、そこから閉域モバイル回線でクラウドの文字起こしAPIだけに接続できるようにしてほしい
  • 電子カルテのサーバーやLANには接触しない設計にする
  • 医師は訪問先でスマホに録音して、その音声ファイルをこの経路でクラウドに送れるようにする
  • 整形後のテキストは院内スタッフが確認してから転記するフローにする(AIが直接カルテに書き込む設計は今回はしない)

3省2ガイドライン(医療情報の安全管理に関するガイドライン群)に沿った構成にしてほしい。

この指示で返ってくる構成案をベースに、実際の病院の環境(回線の種類、端末の数、担当者のリテラシー)に合わせて調整する流れになります。


必要な準備と確認点

この設計で動かすために、事前に整理しておきたいのは主にこの3点です。

  1. 院内のネットワーク構成(どこまでが閉域か、管理業者はどこか)
  2. ガイドライン準拠の確認(3省2ガイドラインへの整合性)
  3. 転記を担うスタッフのフロー設計(確認と貼り付けを誰がどう行うか)

特に2番目は、「何となくOKそう」で進めると後で問題になります。医療情報を扱う場合、クラウドサービスの選定基準やデータの取り扱いについて、ガイドラインが定めている要件を確認してから設計に入る順番を守った方がいいです。


現時点での正直なところ

これは実際に稼働しているシステムの話ではなく、設計として「こうすれば成立する」と見積もっている段階です。カルテ記録時間をどこまで削れるかは、現場の状況によります。

ただ、構造的に成立しないアイデアではないと思っています。「閉域だから全滅」ではなく、「触る場所を変えれば経路は作れる」というのが、今回の話の骨子です。

医療に限らず、「うちはセキュリティが厳しいから自動化は無理」という話は、工場・官公庁・金融でも同じ構造で出てきます。閉じているのがどの部分なのかを先に整理すれば、触らなくていいものと、触れる余地のある場所が見えてきます。


この話が当てはまる場面

  • 訪問診療・在宅医療など、診察場所と記録場所が離れている医療機関
  • 電子カルテのベンダーに声をかけたがコストや交渉で止まっている
  • 「閉域だからAIは無理」という前提で話が終わっている情シス担当者

電子カルテを動かさなくてもできることはあります。最初の一手をどこに置くか、整理だけでも役に立てることがあります。

同じような業務課題はありませんか?

御社の状況に合わせて、最適なAI活用のかたちをご提案します。要件が固まっていなくても大丈夫です。

無料で相談する