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医療・規制業界

AIに「できないこと」から話す理由

建築確認審査の支援PoCで学んだこと

2025-10-10

AIに「できないこと」から話す理由

建築確認の審査をAIで支援できないか、という話が来たとき、最初にやったのは「できること」の説明ではありませんでした。

「精度100%は約束できません。PoC(試作)の範囲で、狭い場所から確認していきましょう」と先に言いました。


審査という仕事の構造

指定確認検査機関が建築士の提出する図面を審査するとき、チェックしていることはざっくり2種類あります。「この数値は建築基準法の要件を満たしているか」という計算系と、「書類の記載が漏れていないか、前ページとの整合がとれているか」という確認系です。

前者は面積・高さ・用途地域といった数値を拾って、法令上の基準と突き合わせる作業です。計算自体は複雑でなくても、拾う量が多く、人が繰り返す部分が多い。後者は「この欄が空欄になっている」「前の図面ではAと書いてあるのに、ここではBになっている」という類の照合です。

どちらも、AIが得意そうに見えます。実際、PoC段階では試した部分があります。数値を図面から取り出して基準と照合する流れや、過去の審査事例をRAGで参照する仕掛けです。

動いた部分はあります。でも「審査員が最終確認なしに使える」レベルには、まだ届きません。


先に言っておかないと、あとで困る

規制業界でAIを入れるとき、一番事故りやすいのは「導入してみたら精度が足りなかった」ではなく、「最初から期待値が合っていなかった」ケースです。

AIを入れようとする側は、どうしても「これで手作業が全部なくなる」を前提に考えます。それを最初に崩しておかないと、後から「なぜ全件チェックしてくれないのか」という話になります。

私はこのテーマを受ける前に、整理してから持っていきました。

審査支援として最初に試せる範囲:

  • 図面の数値(面積・高さ・用途地域)を取り出して、基準法の数値要件と照合する
  • 書類の記載漏れと、書類間の整合性チェック
  • 過去の類似事例をAIに参照させて、参考情報として出す

最初から言っておきたいこと:

  • 精度100%は約束しない。読み取り誤りや見落としは出ます
  • 「AIが確認したから合格」という使い方はNG。確認補助として使う前提で
  • 要件定義は軽くない。審査のルールと例外を整理する作業に、最初に時間がかかります
  • まず狭い範囲でPoCをやって、使えると判断してから広げる順序でいきましょう

この4点目、「狭いPoCから広げる」は結局どのAI案件でも言うことですが、規制業界では特に守った方がいいと思っています。ミスの影響範囲が違うからです。


「要件定義が重い」は本当

建築基準法の数値要件は、用途地域・建物の用途・延床面積によって適用条件が変わります。同じ「高さ制限」でも、第一種低層住居専用地域と商業地域では話が違う。図面1枚を審査するためのルールが、実はかなり多い。

これをAIが参照する形にするには、どのルールをどの形で持たせるかの整理が要ります。法令の条文をそのまま突っ込んでも、期待どおりに動かない場面が出てきます。

AIへの頼み方でいうと、こんな感じで試しました。

建築基準法の容積率に関する要件を、用途地域別に整理して。条文番号ではなく「第一種住居地域では〇〇m²以下の場合、制限値は何%か」という実務で引ける形に直して

法令の構造を「実務で使える形」に変換する作業が要るわけで、ここが「要件定義は重い」と先に言った理由です。AIが知識を持っているかどうかより、その知識をどう整理して渡すかの設計が先に来ます。


結局うまくいく理由

「できないことを先に言う」は、正直にやっているだけで戦略ではありません。ただ、結果として話が進みやすいのは事実です。

なぜかというと、期待を下げて入ると「これだけ動いた」が素直に評価されます。最初から「全部解決」で入ると、部分的に動いても「まだここができてない」ばかり出てきます。

規制業界のAI案件は、最初の期待値設定で半分が決まる気がしています。

精度が出るかどうかは試してみないと分かりません。でも「最初から制約を全部出す」かどうかは、受ける前に決められます。私は後者だけ必ず守るようにしています。

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