アンケートの自由記述をAIに整理させると、似た意見がまとまり、話題ごとの件数も見やすくなります。ただ、きれいな一覧になるほど、「多い順に改善すればよい」と考えたくなります。
大切なのは、集まった文章の傾向と、調査対象全体の意見を分けて読むことです。この記事では、顧客や社内のアンケートを改善判断に使う担当者向けに、AIの分析結果から何が言えて、何が言えないかを整理します。
自由記述を書いた人は、全員の代表とは限らない
アンケートを送った人、回答した人、その中で自由記述まで書いた人は、同じ集団ではありません。
説明用の例として、回答者のうち一部だけが自由記述を記入し、その多くが待ち時間に触れていたとします。そこから分かるのは、まず「記入された文章では待ち時間がよく話題になった」ということです。「利用者の大半が待ち時間に不満を持っている」とまでは言えません。
書かなかった理由も、満足していた、忙しかった、言葉にしにくかったなど複数考えられます。空欄を好意的な評価として扱う根拠はありません。AIが文章を細かく読んでも、書かれていない人の事情は確定できません。
「何人の声か」と「何回出たか」は違う
一人が長文で同じ不満に何度も触れた場合、話題の登場回数と、その意見を持つ回答者数は一致しません。逆に、一つの回答に複数の話題が入ることもあります。
「待ち時間への意見が多い」という結果を読むときは、文章の数、回答者の数、話題への言及数のどれを表しているかで意味が変わります。割合なら、何を全体として割った値なのかも必要です。
複数の分類に一人の回答が入る場合、分類別の割合を足しても100%にならないことがあります。それ自体が誤りとは限りませんが、読み手が「人を重複なく分けた結果」と思っていれば、解釈がずれます。
分類の細かさが、順位を変える
待ち時間の意見を一つにまとめ、案内への意見を「場所」「文面」「タイミング」に分けたらどうなるでしょうか。元の声が同じでも、一つにまとめた話題は上位に見えやすくなります。
AIが付けた分類名は、唯一の正解ではありません。大きな分類と細かな分類が混在した順位から、そのまま重要度を読み取らないようにします。
「説明は分かるが、聞ける時間がない」のように、肯定と困りごとが同居する回答もあります。これを一つの「満足」「不満」に押し込めると、どこを変えるべきかが見えにくくなります。分類が難しい回答は、無理に収めたことを隠すより、解釈が分かれるものとして扱う方が誠実です。
前回との比較でも、分類の分け方が変われば件数は動きます。増減がそのまま利用者の変化を意味するとは限りません。
多い意見と、放置できない意見を分ける
頻度は、改善を考える材料の一つです。ただし、件数の少ない声にも、利用を諦めた理由や、特定の条件でだけ起きる深い困りごとが含まれる可能性があります。
例えば「少し見つけにくい」という多数の声と、「必要な情報にたどり着けず利用できなかった」という少数の声では、影響が異なります。これは説明用の例ですが、人数の順番だけで対応順を決められない理由になります。
反対に、強い表現の一文だけを代表的な声として選ぶことも避けます。よく出る意見なのか、少数だが影響が大きいのか、まだ意味を確かめたいのか。結果を受け取る人が区別できることが重要です。
AIが補った声を、実際の回答に混ぜない
回答が少ないからといって、AIに「答えなかった人が言いそうなこと」を作らせても、実際に聞いた人数は増えません。仮説として検討することと、集まった声として報告することは分けます。
AIが作った代表的なコメントも、元の回答の引用とは別物です。複数の意見をまとめた表現なら、要約であると示し、実在の一人がそのまま述べたように見せない配慮が必要です。
自由記述には、氏名がなくても個人や取引先を推測できる内容が入り得ます。分析や共有に使う範囲は、回答を集めた目的と情報の取り扱いに照らして判断します。
AIによる整理は、声を読み渡す助けになります。結果には、誰から集まった回答か、何を数えたか、分類と解釈の限界を添える。そのうえで、改善の根拠にする部分と、追加で確かめたい部分を分けることが大切です。
参考資料
- AAPOR「Best Practices for Survey Research」:調査対象、標本、無回答など、調査結果を解釈する際の基本事項を扱っています。
- AAPOR「Code of Professional Ethics and Practices」:人間の回答者とAIで生成されたデータを区別しています。本記事の分類・件数の例は独自の説明であり、実際の調査結果ではありません。
