経理代行の会社から相談が来たことがある。依頼文にはこう書いてあった。
「月次決算の報告書作成に、月初から5営業日かかっている。これを自動化したい。」
5営業日。月に一度の仕事のために1週間近く使っている計算だ。相手の言う業務フローを読むと、なぜそうなるかはすぐ分かった。
何が5日間を食っているか
依頼の内容を整理するとこんな構造になっていた。
会計システム(クラウド版)からデータをダウンロード
↓ ここを一部RPAで処理済み
会計登録時に「未払金」で設定した項目を手動で修正
↓ 備考欄に書いたメモを目視で確認→勘定科目を直す
PL・BS・資金繰り表を作る
↓ Excelで手作業
必要な数字を抜き出してサマリーにまとめ、報告書を仕上げる
データはデジタルで入ってくる。なのに途中で一度人の目が入り、そこから先は手作業に戻る。この構造が5日間の正体だ。
RPAで一部自動化している、というのも見逃せない。入口は動いているのに、中間の「備考欄を目視して勘定科目を直す」という工程が手を離せないでいる。ここを突破できれば、残りのPL生成とサマリー作成も自動化につなげられる。
技術的には解ける
APIで会計データを引っ張り、スプレッドシートに流し込んでGASで整形する、という構造は現実的だ。クラウド版の会計システムならAPI対応している場合がほとんどで、今どきオンプレミスの心配はほぼない。
「備考欄のメモを目視で確認する」という工程も、ルール化できる部分は自動判定に変換できる。備考に書かれている勘定科目のパターンが決まっているなら、AIに判定させるか、単純なマッピングテーブルで処理できる。
PLやBSの帳票生成もGASで動く。データが整形できていれば、テンプレートに値を流し込んでスプレッドシートやPDFにする処理は難しくない。
つまり、技術的に「詰まる壁」は存在しない。
私が断った理由
問題は、技術側にない。
AIとやり取りしながら要件を整理しているうちに、気づいた。「未払金で設定した項目を勘定科目に直す」という処理の、業務的な意味が分からない。
なぜ未払金で登録するのか。どういう条件でどの勘定科目に変換するのか。PLとBSとでデータの扱いはどう違うのか。正直、さっぱり分からなかった。
AIに率直に聞いてみた。「会計は門外漢なんだけど、回答が来て意味を理解して実装できるかな?」
返ってきた答えは「厳しいです」だった。会計業務の理解なしに正しい自動化ロジックは組めない。特に他社の財務データを扱う代行業務は、ミスが致命的になる。テストの正解が分からないから検証もできない。
「勉強する気はあるか」と聞かれたが、ない。そのまま断った。
誰なら受けられる案件か
この案件は「AIに自動化を頼む」という話ではなく、会計業務を理解した人間が、自動化の設計に入れるかどうかという話だ。
AIはデータの流れを作る。GASはスプレッドシートを動かす。でも「未払金→勘定科目の変換ルール」が正しいかどうかを判断するのは、業務を知っている人間でなければできない。
依頼した経理代行の会社が最終的に必要なのは、こういうセットだと思う。
- 会計ソフトの業務フローを自分で説明できる人
- その説明をもとに自動化の要件を組める開発者
私は後者はできるが前者ができない。だから断った。
それでも、解ける工程は多い
断ったからといって「この手の案件は難しい」と言いたいわけではない。むしろ逆で、会計の中身を理解した人間が設計に入れば、5営業日を1〜2日に短縮することは現実的だと思っている。
データ取得、整形、帳票生成、サマリー出力。工程ごとに見れば、技術的なブロックはほぼない。詰まるのは「この数字は合っているのか」という判断だけで、そこさえ業務知識で補えれば、残りは自動化できる。
中小企業の経理周りで「月初に同じ作業を毎回やっている」という状況はよくある。どの部分が自動化に向いているか、どこに人の判断が残るべきか。その仕分けをするだけで、だいぶ変わる。
私が受けられるのは仕分けと自動化できる部分の設計だ。会計の中身は一緒に整理してくれる人が必要になる。そこだけ正直に言える。
